松崎 丈
カンゲキ備忘録【演劇】『廃墟のラルモ』
更新日:2020年6月25日
とき:2019年3月29日(金)
ところ:花まる学習会王子小劇場
ザレ×ゴト 第16回公演『廃墟のラルモ』

Compositeというバーで、たまたま隣り合わせた2人の若き女優、合田結香さんと夏井魚々子さん。
3月に揃って出演される舞台があるということで拝見してきた。
今回のお供はリュウ氏。彼が僕のお供なんだか僕が彼のお供なんだか、判然としないが…。この日は一緒にマチネでも一つ観劇していたので、ソワレは開演ぎりぎりの到着となった。
ザレ×ゴトさんの舞台は初めて観た。
一切の予備知識、フィルターなしで芝居と向き合うのはなかなか楽しい。
大火災のために廃墟になった商業ビル。そこに住み着いている亡霊たちと、そこに迷い込んだ人間たち。
亡霊も人間もそれぞれの想いや葛藤を持ちながら、お互いに交流する。その様子が描かれる2時間ほどのコメディファンタジーだった。
決して大きな劇場ではないのに、舞台にたくさん人が出て来ること!!
その分、一人一人の持ち分は限られてくるし、いきおい人物の造形にも深みが出ない。一つ一つのエピソードも消化不良になってしまうし、「あの人(亡霊)は何のために出て来たの?」と思ってしまう節が多々あって、それぞれの役に強い必然性と必要性を感じない。
またファンタジーとはそういうものだろうが、なんだかよく分からない設定に頭の中は「?」で溢れてしまう。例えばビルに住み着いている亡霊たちに強制退去を宣告する人が出て来るのだが、そもそも亡霊に退去を命じる人ってどんな立場なの?どういう根拠に基づいて退去を命じるの??そして、それを受け入れて退去していく亡霊たちって???
はっきり言って荒唐無稽な話なのだ。
何が何だか、分かったような分からないような話なのだ。
にもかかわらず、どうして気持ちが熱くなのだろう?
これが、生の舞台のマジックなのだ。
どんな戯曲でも、そこに俳優の声が入る、動きが入ると、言葉の一つ一つが粒だって来る。よく言う「魂が吹き込まれる」というやつだ。
その「魂」に熱があれば、その熱は見ている側にも伝播する。そしてそれがいつの間にか「感動」とか「感激」という言葉にまとめれる。
初めてシェイクスピアの『真夏の夜の夢』を見たときがそうだった。戯曲を読んでも全く心惹かれなかったあの作品が、蜷川幸雄の手にかかり、瑳川哲朗や白石加代子によって命を与えられて、シアターコクーンという場所で盛大な祝宴と化すと、生涯忘れえぬ劇的体験となるのだ。
『廃墟のラルモ』、舞台狭しと飛び回る16人の役者たちと、それを後ろから支えているスタッフの「熱」が伝わったことは間違いない。
まだ若く不器用な熱かもしれない。この先まだまだ経験を重ね、苦汁をなめ、七転八倒の苦しみを味わわねば、本当に観客を納得させるには至らない熱かもしれない。
しかし少なくともそこに舞台にかける熱い思いがあれば、その思いが本当ならば、観客は鋭敏にそれを受け取るものだ。そしてその熱を受け取った以上、観客はなかなか離れてはいかないものだ。
少なくとも僕にはその熱がひしひしと伝わった。
だからまた、なんだかよく分からない亡霊や人間たちに、なんだかよく分からないけど、もう一度会ってみたいと思うのだ。