• 松崎 丈

カンゲキ備忘録【演劇】『Beautiful Losers』

最終更新: 6月25日

とき:2019年7月26日(金)

ところ:下北沢Geki地下Liberty

劇団マリーシア兄弟 プロデュース公演『Beautiful Losers』

 ひょんなご縁で劇団マリーシア兄弟さんのプロデュース公演『Beautiful Losers』を観劇。


 ご一緒したのは、ともに深酒を愛する悪友・タカ氏。

 ひどい方向音痴な僕は例によって劇場を探してうろうろうろうろ。頼みの綱のタカ氏もGeki地下Libertyは初めてらしく、一緒にうろうろうろうろ。蒸し暑い下北の午後を二人で汗だくになって徘徊し、やっとのことで劇場へ。

 何とかたどり着いた劇場はなんとも、なんとも魅力的な構造で、僕は周囲の目も気にせずにひたすらキョロキョロ。


 座席を見下ろす開口部(後から聞いたら搬入口だとのこと)が、なんとも魅力的で劇的想像力をバシバシ刺激します。

 舞台の上には長机とパイプ椅子。シンプルなセットはアイドルのライヴが行われる劇場のマネージャーの控室の設え。


 シンプルなセットであるがゆえに、いまからここで展開される会話劇では役者の力量がモロに試されるのだと、一観客である僕の方も妙な緊張感に包まれて、空調のよく聞いた空間にもかかわらず、手汗がじっとりとにじみ出てきました。

 果たしてそこで繰り広げられる会話劇は、静かに静かに始まるのです。

 その静けさがかえって、何かを諦めてきた男たちの心の火の燃えさしを感じさせます。


 荒ぶる魂の火に、かたく目をつぶって思い切り水をぶっかけて、無理やりに消し去ったはずだったのに、どうしても消しきれずに残ってしまったその火種。この上もなく厄介で、どこまでも往生際が悪くて、そのくせ、台風が過ぎ去った翌朝の東の空のように澄み切っている純粋な想いの欠片。その想いの欠片が、抑制された台詞回しの底でキラキラと輝いています。


 そのキラキラが、物語の進行とともに、一つずつ丁寧に回収されていく伏線の中で、徐々に徐々に大きくなって、ラストシーンを迎えるころには僕らの心を射抜く大きな光となっていくのでした。

 この物語に登場する男たちは、みんなそれぞれに不器用で、脛に傷があるゆえにそこはかとなく優しくて、静かにもがいて、静かに傷ついています。燃え残った心の火に、本当は気付いているのに、気付いていないふりをしている。そのさまは、本当に本当に切ない。

 その切なさを共有しながら、彼らの一人一人がラスト向けて、自分の心の燃え残りに向き合う決意をした時に、僕らの激しく心が震えるほどに勇気づけられているのでした。温かい物語の手にそっと背中を押されている。そうだ、上質の物語はいつも観客に寄り添ってくれる優しさを持っているのだ。そう感じずにはいられません。

 僕自身、40歳を迎えた今年、再び劇団を立ち上げました。

 だからこの物語はばっちり感情移入できたし、励まされ、刺激され、負けてられるかと発奮させられたのです。

 本当にひょんなご縁で観劇したわけですが、まさに縁は異なもの。

 これだから芝居は止められないし、人間は止められないと思わずにはいられないのです。

 劇場を出て再び下北の路上に出ました。

 あれだけ不快だった蒸し暑さが、うだるような太陽の光が気になりませんでした。

 それはそんな暑さが問題にならないくらい、僕の心がもっともっと熱く燃えていたからだなのでした。

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