• 松崎 丈

カンゲキ備忘録【演劇】『迷惑な十一人の隣人共』

とき:2019年12月29日(日)

ところ:参宮橋トランスミッション

劇団・鉄骨ボレロ 第7回公演『迷惑な十一人の隣人共』

 twitterで拝見した鉄骨ボレロさんの公演を観に参宮橋へ。


 小田急線参宮橋駅に降り立つのはなんと23年ぶり!当時のことが記憶にあろうはずもなく、土地勘もなく、方向音痴で、あろうことかスマホのバッテリーが突如尽き果てた僕は師走の寒空の下をさすらうことに。


 徘徊すること15分。やっとみつけた劇場は・・・・・・なんだかとってもいい感じ!


 客席入り口に通じる螺旋階段は急でうっかり転んでしまいそうだけど、一段ずつ降りていくごとに日常を離れる感じがしてワクワクします。


 舞台下手奥に見える階段も効果的に使えばかなり芝居の幅が広がりそう。


 こりゃあ、ぜひ一度やってみたい、やってみなきゃあならんだろう!と思わせてくれる箱なのです。


 そんな魅力的な劇場で展開された物語のあらすじは・・・。

【あらすじ】


 とある地区公会堂の会議室に集められた、マンション「ベル・フラット」の住民たち。  ポストに投函された紙には住民会議、全員参加、それだけ。  誰が何の目的で、そして何を会議するのかわからぬまま、続々と集まる住民達。そんな中、1人の住民が話し出す。「このマンションには、ひらりんが住んでいるのです!」超人気アイドルが同じマンションに!?ストーカー被害に遭ってる?下着泥棒?誰かが何かを隠してる、いつしか会議は犯人探しから弾劾裁判の様相を呈して、、、住んでる住民みんな迷惑!ドタバタ住民会議コメディー。

 レジナルド・ローズの『十二人の怒れる男』や三谷幸喜の『12人の優しい日本人』を彷彿とさせるタイトルで、多少の予断をもって劇場に足を運んだのだが・・・・・・まったく違った。もちろんいい意味で。


 ひと癖もふた癖もある訳の分からない登場人物たちから、次々と浴びせかけられる遊び心に富んだ台詞の千本ノックに終始笑わせてもらっているうちに、あっという間に時は流れて行ってしまった。


 頭脳をフル稼働させて物語を追っていくようなコメディも嫌いではないが、ただただ笑っていられる空間も心地よい。そこに多少のペーソスや「ほのぼの」が隠し味のように効いていればなおのこと。仮に積み残された謎が残るとしても、それらの塩梅が良ければ朗らかな気持ちで劇場から日常へ戻ることができる。


 そのような点では、『迷惑な十一人の隣人共』は加減がとても良い。安心して笑っていられて、ちょっとほろっとさせられて、ほんわかとした幸福感とともに劇場をあとにできるのだ。

 11人も人が出てくれば、それぞれのキャラクターの配分が難しい。同じ類型の人物ばかりでは当然つまらない。元気のよいキャラばかりでは疲れてしまう。やはり動と静のバランスが大切だ。


 「動」に分類される役どころは台詞数も多かろうし、体力も必要だ。よく「キャラが立っている役の方が演じやすい」という人がいるが、そんなこともない。キャラが立っていればいるほど、パターン化された芝居に陥りがちで、そこから一歩抜け出すのはなかなか難しい。


 「静」に分類させる役どころは「動」に埋没しないように、しかし役分を心得ている必要もあり、こちらもなかなか簡単ではない。


 群像劇の難しいところは、ほかに埋もれないようにしながらも、全体としてハーモニーを保たなければならないところだが、そのハーモニーがあまりにも均整の取れた協和音では、芝居全体としての面白味が減衰する。

 この作品のいいところは、適度に不協和音なのだ。


 登場人物のキャラクターからすれば完全な不協和音で、ともすれば空中分解してしまいそうなのだけど、そこをうまくまとめていくのは脚本の力であり、狂言回し的な役割を担う蘭(あららぎ)なのだ。

 すべての登場人物にそれぞれの魅力があったし、その演技も充分に好感を持てるものなのだが、個人的には蘭役の蜷川さんの演技が役にはまっていてとても良かった。抑制された中に誠実さがあり、行き過ぎた真面目さがあり、そして漂うようなそこはかとない悲しさがあり。それはいま一人の狂言回しである豊後役の小林さんとうまく一対になっていて、動と静の両面から物語の骨格をしっかりと支えている。この骨格が維持されているから、そこに投げ込まれてくる他の登場人物のセリフや動きがちゃんと生きてくるのだ。

 結果、不協和音は適度に居心地の悪さを残しながら、終わってみればやはり心地よい。劇場を出るときには日ごろ心の中にたまったネガティヴな感情をすっかり洗い流してデトックスしてくれたような快感がある。

 そして主宰の渡邉さん。やはり主宰の存在感は大事であると再認識させられる。

 登場しただけで、得も言われぬ安心感がある。そういう「重し」みたいな要素はやはり必要で、それを空気として出していけるのはとても大切なのだ。演技の持つ説得力のようなものも、他の役者より上をいかないと務まるまいし。


 渡邉さんを見ていると、そのような安定感みたいなものがひしひしと感じられ、自分もまだまだだなと反省しきり。どうやら渡邉さんは僕より10歳近く年下のようだが、あの安定感はどこから来ているのか・・・・・・。

 とにもかくにも、年の瀬おしせまるなか、がっつり笑わせてもらい、心もリフレッシュ。

 なんだか分からないけど、来年も頑張らなきゃなって気持ちにさせてくれる作品でした。

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