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  • 執筆者の写真松崎 丈

カンゲキ備忘録【演劇】『入居者募集!!みどり荘』

とき:2019年9月16日(月)

ところ:TACCS1179

遊々団★ヴェール第6回公演 『入居者募集!!みどり荘』

 

 今回のお供はにわかに観劇の楽しさに目覚めた青年リュウ氏。今年3度目のご一緒となりました。


 僕よりも一回り年下のリュウ氏は、高身長でスタイルも良く、水の滴るような男前。


 一緒に歩いていると、すれ違う女性陣の目はことごとく彼に注がれ、年甲斐もなく、そして何の必要性もなく、ほのかな嫉妬を覚える私であります。


 今回の劇場は西武新宿線下落合でありまして、そう言っちゃあなんですが、人の姿もまばらな街。リュウ氏のみに降りかかる視線への無意味な妬みに身を焦がすこともあるまい・・・と思いきや!


 劇場はまさに鈴なり、満場のお客さん!

 こいつは出演者であり、今回の公演を拝見するご縁となったシンちゃんも喜んでいるだろうと、私のケチな妬心は溶けていきました。

 

【あらすじ】

 最寄駅から徒歩18分。  住宅地にひっそりと建つ、今時あまり見かけない風呂・トイレ共同のおんぼろアパート『みどり荘』。

 住込み管理人の佐々木 律(りつ)は、個性豊かな住人達と騒がしくも楽しい毎日を過ごしていた。  いつも通りの騒がしいある日、見知らぬ男がやって来て・・・

 

 どこかで見たことのあるような、どこかで聞いたことのあるような、そんな「ベタ」な展開を予感させます。

 しっかり者の若くて美しい管理人さん。

 ずぼらでどうしようもない大家は住人の食べ物や飲み物を盗み食い盗み飲み。

 ゲイあり、ヲタクあり、地下アイドルあり、相撲取りのような格好の書道家あり、果ては中庭に住むインディー・ジョーンズ然とした言葉を話さぬ冒険家!そこに加わるいかにも訳ありそうな新しい住人。

 そのアパートを訪ねてくるヲタクの子分、バカが付くほど純情な農家、地下アイドルのストーカー、怪しいピザ屋、無表情の女。

 唯一の良心的存在は小説家でもある大家の編集担当。しかし彼女さえもスタンガンを常時携帯!

 まあよくもこれだけ様々なキャラクターを考え付くもんだと感心しきり。

 しかし、どれだけ巧まれたキャラクターが登場しようとも、そこにアッと驚かせるようなどんでん返しがあろうとも、「ベタ」なものは「ベタ」なのです。

そしてその「ベタ」が限りなく素晴らしい!!

 ベタに笑いをとるというのは本当に難しいことです。

 泣かせるよりも笑わせることの方がはるかにはるかに難しい。

 「笑われる」ことはもしかしたら簡単かもしれない。しかし「笑わせる」のは本当に難しい。

 この作品は「ベタ」なことを「ベタ」に笑わせてくれます。

 それは観客の想像以上に恐ろしく難しいことなのです。

 そこにはまずよく練られた脚本の力を感じずにはいられません。

 『めぞん一刻』かよっ!木皿泉の『すいか』かよっ!『星の王子ニューヨークへ行く』かよっ!心の中で一人突っ込みながら、笑って笑ってさあ大変!!

 もちろん脚本はただの活字。

 そこに魂を吹き込むのは役者です。

 こういう芝居は最近ではちょっと記憶にないのですが、今回の作品、「まずい」役者が一人もいないのです。

 これはちょっと、いやかなりすごいことだと思います。

 みんないい、みんな好きになってしまう、そんな芝居なのです。

 こんなことを言うと「お前は何様だ?」って感じですが、知り合いが出ている舞台を見に行きますと、特にそれがコメディだったりしますと、多少なりとも「愛想笑い」をするのですが、この作品は愛想笑いなんてする暇はゼロ!すべてナチュラルに引っ張り出された笑いだったのです。

 先ほどこの作品を「ベタ」だと言いましたが、「ベタ」な作品は「ベタ」な人たちには作れない。

 つかみ合いにならんばかりの、真剣な稽古があってこそ初めて成り立つのだし、本気が横溢してこそ成り立つものだと思います。

 笑いにはそんな厳しさがあります。

 僕は落語が好きですが、名人上手と言われる落語家たちはみんな落語と格闘しているように聞きます。

 そのような格闘がなければ、本当の「面白い」は作られないのでしょう。

 その格闘の過程を、しかし観客の前にさらしてはいけない。

 笑いとはそれほどにも厳しい。後になって思えばこの作品はその厳しさの上に成り立っていたのです。

 そう思えば、喜劇とはつくづく業の深い人々が作る業の深い娯楽です。

 その業が深ければ深いほど、腹の底から笑うことができる。

 この矛盾、この錯誤・・・・・・。

 ああああああ、でもそんなことはどうでもいい!!

 とにかく今日もらったたくさんの笑いを力に変えて、明日もまた元気に精一杯、自分の日常にぶつかるだけだ!

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