松崎 丈
カンゲキ備忘録【演劇】『今夜、桃色クラブで』
とき:2020年7月26日(日)
ところ:自宅(ZOOMによる配信公演)
The Stag Party Show #20『今夜、桃色クラブで』

The Stag Party Showさんの作品を拝見するのも、早いものでもう3度目。
今回は時節柄、ZOOMによる配信公演を拝見しました。
コロナの影響下で配信公演をする劇団は増えていますよね。
僕も何作品か拝見しましたが、それぞれの劇団の公演に工夫と苦闘が見られます。
観客としてできるだけ生の舞台を観るのと同じ状態で観たいので、パソコンをテレビについなぎできる限り大きな画面で観られるように、そして部屋の明かりは落として、上演中はもちろんタバコも吸いません、お酒も飲みません。
【あらすじ】(公式サイトより引用)
「桃色クラブ」というネットのコミュニティールームに集まる人々の物語。
その日もそのネット上の部屋には常連のユーザーがログインをしておりました。
その場所で出会った男に恋をして、未練たらしく通い続ける男。
桃色クラブで日常では得られない「交流」を求めて訪れる男。
いつも一人寂しく夕食を食べながらその場所で語り合う連中をただ見ている男。
この非現実的な場所で謎の発言を連発する不思議な男。
そんな4人がその夜、その場所に集まった。
はてさて、1時間弱のお時間の中で、どんなお話が巻き起こるのか?
続きは、本番当日、ZOOMでお会いしましょう。
ネットの中で起こる物語をネットによって配信する。
「なるほどなあ」とまずは感心しきりでした。「ど」が付くほどのアナログ人間で、「べき」論に終始しがちな頑固な僕にはできない発想です。
配信演劇については賛否両論ありますし、実は僕自身、どちらかというと配信演劇には否定的だったのですが、今回の作品に触れて見方が少し変わりました。
結局のところはどう工夫を凝らすか、それが問題なのだということに今更ながら気づいたのです。
ストーリーの組み立て方、小道具の使い方、役者の動き方、画面の外からのアクセス(たとえばドアベルが鳴るなど)。
そういうことをどううまく使うかで作品をいくらでも面白くできるという、当たり前と言えば当たり前のことに背を向けていた固陋な自分を大いに反省しました。
そしてやはり作り手の熱です。
それは画面の向こうから伝わってくるものであるということは映画やドラマと同じです。
しかし映画やドラマと同じならば「演劇」を名乗る必要はないのではないか?
いままではそのように考えていたのです。
ところが、今回4人の演技に触れて、収録されたものと生で配信されるものの間の違いがあることに改めて思い至ったわけです。
たしかに彼らは画面の向こう側にいるけれども、生で演じていることによってその場でリアルに発生している熱が、画面を飛び越えてこちらに伝わってきます。
それは一度収録され編集されたものが持つ熱とは、良い意味で質が異なるように思いました。
それにしても無観客の芝居は演者としても大変だろうと思います。
僕は目の前にお客様がいてくださる場で芝居をしてきましたが、お客様が目の前にいてくださることは、もちろん緊張もするけれども、その一方でとても心強いことなのです。
お客様の反応を感じ取りながら芝居を変えることもできるし、演者が発した熱がお客様に伝わると、お客様も熱を出してくださる。その熱が舞台上の演者にフィードバックされると、演者の芝居はさらに良くなることがあります。
そういう意味で目の前のお客様は本当にありがたいのです。
それがない状態で芝居をするのは本当に大変だと思いますが、今回出演されていた4人とも、そのハンディキャップを克服することに成功されていたと思います。
4人ともそれぞれ見ごたえのあるお芝居をされていましたが、ジョンを演じられたヒロキさんはとても達者で新人とは思えない堂に入ったる演技でした。
この方は『ぼくらの事情』ではカウンセラーのアシスタント役を演じられたと記憶していますが、そのときの芝居も見ごたえがあり、ある筋から「彼は新人だ」と聞いた時に少なからず驚いたことを覚えています。
デフォルメされた人物造形の中に一抹の寂しさやミステリアスな部分を感じさせるところがある方で、今後ますますの活躍が期待されます。
キーを演じられたマサムネさん。これは難役だったと思います。
他の3人のキャラが立っているだけにそこに埋没しないように、しかし(ちょっと未練なところはありながらも)一番「普通」を演じなければならないのは、さぞかし大変だったことでしょう。
彼の演技のトーンが抑えられれば抑えられるほど、この作品はうまく機能していくのだろうと思いながら観ていました。言ってみれば彼がこの作品の扇の要になるのだろうと。
果たしてキーを演じるマサムネさんのお芝居はいい意味で抑制がきいていて、この作品全体がしっかりとまとまっていたと思います。本当にお疲れさまでした。
四者四様、この新人公演に向けて本当に努力をなさったと思いますし、この作品を通じて演じることの難しさも喜びも、多くのことを感じられたのだろうと思います。
これからのご活躍を一人の観客として楽しみにしたいと思います。
日曜の夜の素敵な1時間、そして何より演劇の可能性と力を改めて感じさせてくれたフレッシュな役者のみなさん、そしてそれを導き支えられたスタッフのみなさんに心から感謝を。