松崎 丈
カンゲキ備忘録【演劇】『みなとみらい』
更新日:2020年6月25日
とき:2019年4月19日(金)
ところ:STスポット横浜
劇団 虹の素 #8 『みなとみらい』

3月に引き続き、舞台関係者が集まるとあるバーで知り合った若い女優・夏井魚々子さんの舞台を観に横浜へ。今回ご一緒したのは飲み友達のタカちゃん。
大学進学の際、上京して初めて住んだのが横浜だった。それ以来、横浜は思い入れの深い特別な場所。東横線直通の副都心線に乗るだけで心が弾む。
STスポット横浜という箱は初めてだったが、工夫次第でいろんな使い方ができそうな面白い空間。開演までの間、場内の各所に目を配りながら、使い方を妄想するのは実に楽しい時間。
虹の素という劇団は横浜・川崎を中心に活動しているらしい。
こういう地域密着型の劇団は理屈抜きで応援したくなるし、しかもそれが僕の大好きな横浜に根ざしていると聞けば、余計にエールを送りたくなる。
平成という時代の中で青春を共に生きている5人の物語。現在と回想を混在させながら、平成を彩ったちょっと懐かしい音楽を随所に散りばめ、横浜という街への愛とオマージュを漂わせてストーリーは進んでいく。
思春期に誰しもがぶつかる様々な悩みと葛藤。それは恋だったり、将来の夢と現実の相克だったり、自己重要感の揺らぎだったり。その悩みや葛藤と30歳を迎える現在の彼らとのつながりを描こうとしている。
その意気はとても良いし、共感するところもあるし、舞台美術の工夫だったり、音楽の使い方だったり、役者たちのまっすぐな演技だったり、若い力がスパークしたような素敵な作品なのだ。
ただ若さゆえの粗削り感と溢れんばかりの冒険心がネガティヴに作用する部分もあったのも事実。
小さな箱で観客との一体感を演出したかったのかもしれないが、過剰に客席に語りかけるのは逆効果を生むこともある。それが非常な効果を発する場合もあるが、それは計算され尽くされたほんの一瞬に起きるものであって、何度も何度も生の語りかけを受けると、せっかく劇世界に遊んでいたのに、一気に現実に引き戻される。客席に語りかけてみようかな、語りかけたいなという誘惑はよく理解できるが、その誘惑に耐えてこそ、客席との質の高いコミュニケーションが生まれる可能性が出てくるのだ。
群像劇で行くのか、2人の女性の物語で行くのか、方向性がもっとはっきりしていた方が良かったと思う。75分という上演時間の制約のせいだと思うが、1つ1つのエピソードが消化不良のまま終わっていく。いや、終わっていくというよりも始まってさえもいない感じがする。舞台の上ですべてを語るわけには到底いかないが、しかし限られたセリフの中に、その人の人生の延長を見せなければ、薄っぺらい人物造形で終わってしまう。この作品の中にはとっても印象的な台詞がたくさん出てくるのだが、たくさんあり過ぎてかえって印象を薄めてしまっていたし、チープな感じになってしまっていた。そうするよりも、もっと1つ1つのセリフを磨きこんだ方が、良い出来になっていたのではないか。
そして最後に明かされる「みな」と「みらい」の間に横たわる気持ち。そこに至る準備が不充分だったので、急転直下という印象がぬぐえない。劇中の伏線が弱く、あのラストを迎えるのに正当な理由がない。観客を取り残して物語だけが勝手に終わっていく。それはルール違反だしマナー違反だと思うのだ。観客はわがままで、劇世界に過度に組み込まれたくはないが、しかしコミットしていたいと思うものだ。あまりにも唐突なラストが準備不足で訪れた場合に、僕らは劇世界から一気に締め出され疎外される。「いままでの時間は何だったの?」という寂しさだけを覚えて。 と、かなり憎まれ口を叩いたが、僕はこの劇団の芝居、ものすごく好きになった。好きになったからこそ、言わずにいられないところがあって、これが僕なりのエールなのだ。
彼らの芝居、なにしろ真っすぐなんだ!!上手いとか下手とか、感動したとかしないとか、そんなことではない。とにかく芝居に対する真っすぐな気持ちがびんびん伝わってくるのだ。彼らと同じ空間にいるだけでエネルギーをもらえるのだ。
まだまだ未熟で不器用で、見ていてハラハラするけれども、それらのすべてをひっくるめて、僕は彼女たち彼たちとの時間を共有できたのだ。
また一つ、ウォッチし続けたい集団と出会えたことに、心からの感謝を。